第二部  3

地と血

 独ソ間 接点地なる リトアニア
     ふるさと親の 近くを指向(おも)う

 昔むかし ポーランドと リトアニア
     一ケ国だった みな知り合いの

 何世代 血をうけついで 生きてきて
    たどる血統 わからぬほどに

 全欧州 濃いも薄いも 血はめぐり
     何ぞ不可分 あげつらうかな

  
 流銅(なが)れつつ
    捜す避難の その先は
     親許(おやもと)まっさき
      うかがえる地へ

 地と血にて
   あらそう執(おも)い
     いま むかし
     何処(どこ)で生まれた
      人としものの


蝋燭の灯

 奔走す
   ユダヤのための ユダヤ系
     人脈(ひと)ととのえん
     今日 明日 明後日
           
 善策(ぜん)にても
   嘖(さいな)まれたる
      ひとのあり
     ひとつ定住
    ひとつは移住
                             
 いまにしぞ
   燃えつきるらん 明(あか)さかな
     リトアニア国 蝋燭の灯の

渉外員

 越権とも 渉外員は ぜひに要る
     ヴィザ都合する 杉原領事
               
 目配り手配り
   阿吽(あうん)タイミング差
     <ポーランドの友>
     補(おぎな)いあわん

 バルト地域 ソ連国境 ヘルシンキ
     相互情報 アクセス・ライン        


路傍
                        
 ポーランド系ユダヤ その他 難民
     路傍ぬかるむ ビリニュスの地へ
                 
 へたりこみ
   脚を摩(さす)りて 話しあう
     あるは線路を あるは山越え
                       
 併呑地
   堪(た)えられぬ支配(こそ)
    脱出(にげ)てきた
     老いも若きも 手に手をとって

 父母は 子を歩かせて 児を抱いて
     カウナスここも 通過地なのか

  夥(おびただ)し
    難民 養う 街いずこ
     住宅難の 押し合いへしあい

 凍てつきし大地に 芽吹くとき来れば
     葉群れ草群れ 人を宿すか

 領事館 賃貸契約 はや更新
     あまり厳しい 住宅難で



 ドイツ軍 いよいよ牙を むき出した
     底無し沼の 悪鬼なるかな  

 欧州の 小国家群 根こそぎに
     ナチス・ヒトラー 引きずり込まん
                             さんか
 ナチス・ヒトラー 降伏国の 惨禍帯ぶ
     電撃作戦 裂けよ大地と
  
 前大戦(たいせん)で
   中立堅持の オランダが
     両手(もろて)あげたり あれよ不意打ち

抵抗
 
 日本(わがくに)と
   西側の修復 のぞんでも
     前門の虎 後門の熊
               
 カウナスで
   独国抵抗(ていこう)運動
      おこなわん
     亡命(ポーランド)政府
    その他 各国が            
                      
 不可欠の
   前衛戦の
    守備範囲(まもり)かな
     暫時@フォートレス
       狭められゆく
                           
 われもまた 協力惜しまぬ 気構えや
日本 外務の
    外交伝書使(しょし) いくたびか

 いくとおり 経由コースの まじわれば
     要衝の地を とことん往くや

晴れ間
   
 五月二十九日(バースディ)
    暗雲ついて 晴れを生む
インスピレーション
      そんな吾子かな

パウダー・ブルー つつみし産着 ちいさくて
     花の蕾みの ひそかな命

 男の子 三人つづく 千畝家で
     やっぱり妻は 娘ほしくて

隣人

 民間の 致し方ない 借家かな
     業務次第を 大家に言うも

 一、二階 まずは良しとす 領事館
     任務上には 距離置く
       館員(われら)

 領事館 三階に住む 庶民かな
     都合 不都合 意にも介さず

 アンバランス 住人十色 やどりたり
     大陸という ミステリアスさ
      
 階段で ふと擦れ違う むすめさん
     瞳に憂い しのばせる日の

 励ましは 〃万に力〃と 書く漢字
     二言三言 こころ交わさん
                  
 この世界
   善いと悪しきは
    平衡(かならず)ある
     自棄にならないで
     悲しみは察します
        
 貴女の問題(こと)も
   遅かれ早かれ きっときっと
     解決の道 歩いています
      
 勇気(ともしび)を
   他人(ひと)のためにぞ 点すなら
     わが往く道も ぼっと明るむ  
 
 隣人に せめて日本の よき礼節
     しめすことをも 千畝領事は
 
御簾の燭の ちらつき照らす 執務室
ヴィザあからさま
    領事業務(りょうじ)している

 山ほどの 仕事選り分け かきわけて
     通常事項 ひのめに見せる
              
 カウナスの
    隣人(ひと)はユダヤに 無表情
     少しの関わり もてば火の粉と
              
 いまの現在(こと)
   ユダヤの民の 身上だけと
     庶民の心 千々にみだれて

朝まだき  
              
 朝露も いまだ梢に ねむるとき
     目覚める千畝(われ)の
      リフレッシュ・タイム
 
 小鳥たち 葉ずれの音に 飛び立ちぬ
     千畝(われ)ひとしきり
      おはようの手振り

 草も樹も
   わけへだて無く 地は育て
     人達だけが
    日々に戦場(いくさ)を
                
 朝まだき
   緑の息吹き 胸いっぱい
     萌えたつ命
    何処(どこ)もかわらず
                               
 わが小庭園も
   八百津みどりの
      出(い)づるかな
     なつかしさ芽吹く
      手入れ楽しも

 草露に ふるさとの香の ただよいて
     手ずから土と たわむる日課

 平常心 樹々や草花に つたえられ
     ああ今朝もまた 貰っていくよ

 日向には
   適(かな)った花が 咲くように
     日陰の花も みな美しく


旋律
                  
 精魂の
   こめられて奏(な)る ピアノの譜
     いつも一曲(おはこ)は
        『乙女の祈り』

 三年間 ハルピンで習ったことのみぞ
     殺伐の日々 ほぐす憩いは
                       
心のメロディー そっと愛しみ  癒されて   
     今日リラックス 明日のエネルギー

 ただ一曲 最善つくす 愛着は
     万事を制す 生きざま われの

 菜園も 演奏するも 無心にて
     千畝(わが)心労を
      やわらげている


ミルク
    
 吾子たちよ
   ミルクの湯気の立つ匂い
    抱きあげている 幸そのものを
              
きみたちに
   @スパシーバいう いのちかな     
     朝のひととき 何にもまさる

 走りよる 吾子の心の すこやかに
     妻と祈らん チャベル遠くに
                                           
初夏

 初夏の朝 ついに予期した 出来事が
     津波となりて 押し寄せくるか

 独立国 ここは地獄の 一丁目
     商売すてて われなら逃げる

 独ソ間 ホット・スポット リトアニアの
     住民えてして
    無関心( よそおって)いる

 満州で 否応もなく 見据えきた
     民草 涙(つゆ)の
     あまた血りゆく

 ああ満州 ああポーランド リトアニア
     みな侵略を のぞんでないさ

 おらが国 おらが命の ふるさとも
    人民(たみ)に徒なす
      格差あらしめ

 ショパン『革命』を
    轟かせている胸奥
     時空をわかち
      この日 涙す
 
 傾ぐとき
   二進も三進も
     いかぬ底辺(ところ)
千畝(わたし)は わたしで
    対処(やる)しかないんだ 
                             
 まだるっこし 手際の不慣れ
    日本政府(せいふ)かな
     浮きつ沈みつ
      藻草の流れ
                   
 血のなかに
    仁者(おとこ)独り
     棲んでいた
     いま現れん
       いや以前から

 もう無駄だ
  外務上司との 国際電
     われがいるんだ
    此処(ここ)に勇気で        

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第二部  2

 ビリニュスに 矛先たてた ソ連軍
     突っついてみたり ねじってみたり  

 展戦の 鞭を鳴らした その手もて  
     ひとぉつ ふたぁつ
 キャンディー投げる

鐘の音

 よろこびの 鐘の音ひびく 街々で
  ユダヤ血祭り 祝いの神酒(さけ)か

                      
乞う市民
 <リトアニア人為(のため)の
リトアニア>  
   定住ユダヤ 権利剥奪  

 カウナスの キリスト教徒 襲撃に
     ユダヤの門戸 さっと閉ざしぬ

 彼ら流(なり) 返還うれしと 思えども
     駆け抜ける街 愛車ピュイック

 街角は いたるところに
   ユダヤの眼
     ナチス落人(おちうど)
      手分けし手助け

 カウナスの ユダヤ社会は 多階層
     ここ危ぶむは 少数にして
       
 ユダヤ駆逐(くちく)
    ソ連は決着 いそがない
     安易な空気 明るさまねく

 大戦の くすぶる煙(けむ)の
      一瞬に
     人の笑声(わら)いと
     共鳴(なる)や鐘の音



 治政状況(じょうきょう)を
   敏感キャッチ 疾(と)く走る
     愛車ピュイック
      田舎に遠出

 富裕なす ユダヤ一家と 知りあって
     悲憤の歴史 教えられたり            
                     
 欧州に住むユダヤ人
  二千万人(にせんまん)
     うちの富めるは
      何パーセントか
     
 この顔貌(がんぼう)
   日本人離れのゆえ
     そこそこ警戒
     大いに友好

 長身で うつくしと言う 振る舞いに
     なじみやすさや 務めのあるも
                      
 自分流 生きて学んだ 人生(ひと)の徳
     つらぬけることで また徳を成す

 気の荒むこと多い 今日 この頃や
     居間は唯一 笑ませ家族と
  
 知己(ひと)たちは
  <親切で威厳の人> われが?
    そを徳という
     面映ゆさかな

 とっくりと 徳利かたむけ 思案のとき
    やがて民衆 強く賢くを

ハヌカ  
   
 街ゆく少年 プレゼントの季節だよ
     ハヌカ祭りの お祝いの日だ
           
 窓際に
   八枝の@メノラ
    ユダヤ民家(みん)
     燭(ひ)の揺らされる
        抑圧の風

一人ぽつねん
  ショーウィンドーを 覗いてた
     何を見てるの 何が欲しいの

 ほっとけない
  この店立ち寄る えにしかな
     評判のチョコ われ買いに来て

 この子 私の甥なんですよ 微笑むマダム
     ハヌカにあげる お小遣いね と
 
 丁寧に 挨拶くれた 少年の
     頭(つむり)を撫でる
      異邦人 われ                

 「君のこと好きだよ
    きっと前世に
出逢っていたのかも
      しれないね」      
                               
 「そうだ 今日はハヌカ祭だね
   千畝(わたし)のこと
     伯父さんと思って
      かまわないよ」
                            
 マダムより
   先んじて遣(や)る
    一銀貨(リトス)
     君の幸せ ぼくも幸せ

にっこりと 笑った少年が 土曜日の         
  ハヌカ・パーティー ぜひにと招く

「初めてなんだ
   ハヌカ・パーティー 嬉しいよ
   喜んで行こう 家族そろって」
                        
 祝日の 正装ととのえ
    家族団欒(だんらん)の
     そは温かかな
    嚮(もてなし)をうく

 満ちたりた 一瞬の和み ここちよく
     ハヌカの歌や ヘブライの歌


 灯火が
  こころを輝(て)らす
    夜も更けて
     なつかし語る
   日本の行事(こと)

 「さぁ次は 領事館へ いらっしゃい」
     少年家族の 愛あるをみて

 われ千畝 気の合う人とは 一気かな
     世代をこえて うち解けあえる

 『ヴィザ』
危機感

 避難民 つめかけている リトアニア
     安心できぬ 独立国だ

 日々月々
   危機感おもい うち明ける
     少年一家に
    生き延びてほし

 「君よ 他の人にも 伝えておくれ
     此処(ここ)を脱出(でる)なら 
       今が そのとき」         

1940
                               
 なにはともあれ
  日々の聞き耳
   留意(りゅうい)して
     国の境目(さかいめ)
      人のはざまに
             
 亡命政府(ポーランド)
   時あたかもの 
    特務員(とくむ)かな
     公然の顔
      偽名なのって

 一人ひとり 情報収集 たび重ね
     彼の信頼に 値(あた)う尊敬を
                                      
  公(おおやけ)のもと
     外交伝書使 @各国に    
      リアル・タイムの
       文書たずさう

先例

 年初め とある人物 ヴィザ申請
     日本からの 外務電報

 東京在勤(ざいきん)の 兄が弟
      呼び寄せん
     危うさの増す
     リトアニアから

 亡命中(リトアニア)
   いずれ一人の ポーランド人
     東京経由 アメリカ行きよ

 独ソにて 分割された ポーランド
     国籍(もつ)ユダヤ人
      三百五十万
   
 @ヴィザ調書
   そも民間の ひとと言う  
     いまにし思う 無国籍かな

 名ばかりと豪語す ヒトラー スターリンに
     ポーランド旅券 なきものにされ


 諸国のユダヤ いかに不満を つのらすも
     パスポート所持 ひとしなみ
                                      
 国連の ナンセン旅券 あったとて
     領事拒むと 行きづまるかな

        
 亡命(ポーランド)
 政府発行(はっこう)
 <安全行動書(こうどう)> 
   しめしても
     ヴィザ一筆が
     越境とりもつ

 千畝(わが
) 胸三寸
    可も不可もある ヴィザ発行
     書類不十分で にげる策も
                          
 正規なる 業務遂行 @スリー<S>   

     先例とせん 事後承諾の  

                                
 外務電へ
 「三月二十一日 ヴィザ発行(ひとつ)
    この件 他の件」を打ち

憂い顔

 在ビリニュス ポーランド将校 夫妻の
     ある日あらわる 領事オフィス

 嫌疑うけ 夫の逮捕は 三回と
     嫌気の警官 立ち退きをいう

 ソ連側 ポーランド将校狩り
     @カチンの森で
   四千五百人(かぞえられる)を

 ナチスにて 見込みない命 生け捕られ
     つながれて 強制収容所に

 われら われら
   行き着く世界 なくしたか
     懊悩(おうのう)あらん
     何処(どこ)の国土へ?

 書類なく 行き場所さえも 見当たらず
     絶壁あるく こころもとなさ
                            
母 強いて 
    〃もしかしたら〃の
     日本領事館(りょうじ) 
     期待うすくて 足音おもく

 あっさりと 「喜んで お手伝いします」
     固い握手の 泣き笑いしつ

 来たときは 憂いにしずみ うなだれて
     いま にこやかに 母への感謝

手袋

 必要書類 まかせて下さい 安心して
    夫妻の信頼 そは重きこと

 書類には 表裏一体 テクニック
     日本の友に アポイントメント

 敵陣(まっただ)中
 突っ込む怖さ 寝こむほど
     旅券 手に取るも
      おののいている

 二通り 日本に行くは 難儀の難
    敵中突破口 凌いで しのいで

 陸路 ロシア横断 十七日間かかる
     耐えられますか あの高圧に

 海路 船を乗り継ぎ 三日間
  通り過ぎゆく ドイツ イタリア
              
 わたしたち
 地中海(うみ)の恐怖を
    わすれます
     別れの晩餐
     カウナス駅で

 夫妻には 外交伝書使を たのみます
   この手袋を 外務大臣に

 欧州経由 一組たもつ 手袋が
     いのちの鎹(かすがい)
      夫妻の旅路
   
 お墨付き 千畝の面目躍如かな
     臨機応変 精彩の証(あかし)
                                           

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第二部  1

新設  

 カウナスの ホテル一部屋 借りきるも
     やはり不都合 気が落ち着かぬ

 リトアニア 日を継ぎ増しぬ 住宅難
     押し寄せてくる 避難民で
 
 外務省(リトアニア)も
   正式領事館 開くよう                          
のぞまれている ホテル逗留    
                       
 みつくろう 市の高台の 借家かな
     付近には 各国(かく)公使館あり

 三階建て 借用可能は 一、二階
    これ逃したら 至難の物件

 往復の 国際電報 確認す
     引っ越し準備 改装計画
        
 ちかくには 
   @リガ日本公使(こうし)館
      あるにせよ
    カウナス日本領事(りょうじ)館
      わが住居よと

 外務省 欲しい情報 とるがため
     鵜の目鷹の目 〃更に励め〃や

 国境線 ソ連とドイツ 遠目にて
     フィフティ・フィフティ 身構えている

 矢も盾も あちら立てれば こちら立たぬ
     外務省付き カウナス領事よ

 部下もなく 領事ひとりの カウナスで
     やりとる上司 国際電報                 

 独ソ間 サンドウィッチの 小国家
     把握分析 千畝の派遣

 日本が 与(くみ)し易きは
       どこぞかな
     有耶無耶(うやむや)ヒトラー
       信の置けぬよ

 日独(おたがい)に 冷気ともなう 同盟や
     押しつけあいぬ 敵戦布陣

紛糾

 紛糾す 内外戦の 通報ぞ
    時代といえど 策略といえど

 攻めて攻め込む 隙あらば 奪取の
     人命蹂躪 地球迫害

 追放し
  殺戮するは 人種(ひと)をこえ
    鑑(かんが)みるなき
     国家(くに)とは何ぞ


                         
 侵略は あらゆるものを 贄(にえ)となす
     ユダヤの血潮 アジアの家族

 日本は 侵略地まぬがる いまにして
     侵略するは エゴイストなり

 おしなべて 平等ならん ひとたちも
     地位と権力(ちから)が
    蠱惑(こわく)し戦争(いくさ)

 アジア人 ヨーロッパ人 アフリカ人
     ただ戦争が 分け隔てたり

 大なる戦争 小なる戦争 何故?
     ひとしき思い 抱かぬ人なく             

 愚は悪魔 賢は人 いつとはなくて
     大陸の民 気づかされていた

 強いられて
  彷徨(ほうこう)なせる 人たちの                                  
ピース・フォーエヴァー
 心より出づ



 代理行 公使に領事と つづいたり
     派閥の狭間  軍や外務の

 分断し 分断される 小国家
     明日は我が身か 対岸の火事

 冷静に 眺めていれば わかるらん
     にわか満州 ポーランドとや
              
 独ソ不可侵(ふかしん)の
   ウラをとれとは 日本(くに)で言い
     誼(よしみ)ある ポーランドと

 どこにでも コネクションの 編み目あり
     取捨選択の 途次の目利きは

バイツガンタス街
                     
 秋十月
  初のカウナス日本領事(りょうじ)館
     下見いとわず 胸ざわめいて

 良い環境 バイツガンタス街の家
     潤いありて 安まる庭は

 樹々の間に リスの見つけて 子は元気
     そを温かい 心持ちかな

 身籠れり 妻の体調 気遣いぬ
     大戦のとき 不安かすめし               

<独立国リトアニア>

 維持しうる 独立国の 憂慮かな
     人の噂は ソ連が狙うと

 川へだて ポーランド
   掃討作戦(さくせん)するソ連
    静観ならざる 戦闘行為

 黙認す ソ連の戦闘行為(こうい)
   ナチ・ドイツ
<独立国(どくりつ)リトアニア>
       包囲されたり

 カウナス民 他国の災禍を 楽観視
     くだんの敵は 手ぐすねひくも



 千畝たつ この地は何時か 発火点
    独ソ不可侵(ふかしん)
     両当事者(とうじしゃ) 
      まみえなるかな

 日本は
  ドイツと軍事同盟(どうめい)
    むすぶのか?
     いやます凶兆 明白なしつ

 独ソ不可侵(ふかしん)後
   疎遠ドイツと よそおうが
     されど温存
    関係修復(しゅうふく)の意図

 三年ごし 調停す 軍事同盟
     思案のうちに 内閣たおれ

 世界情勢(じょうせい)が
   視えているのか いないのか
     日本官憲(かんけん)あまた
 一喜一憂

 懐疑(かいぎ)ある
    ナチス・ドイツ ヒトラーに
     あわれ島国
    遠隔操作(そうさ)されゆく

 上司 親ナチス 友は英米派
     如何に取り仕切る 領事一人で           

 @四ケ国 敵にまわして よいものか  
     国際情勢 嗅ぎ分けている

 予測する
   独ソ不可侵(くだん)以来の 胸騒ぎ
     今次大戦(たいせん)のとき 敗戦あるを

 ふせぎたい たっての孤立は 無残のみ
     曹(ともがら)の好意 あつまらぬ国

 追いかけて 国際電報 打つたびに
     世界の喘ぎ 行間に籠め

業務

 業務 滞りなく  あらまほし
     執事 秘書 運転手 みなみな雇う
                      
 あるパーティー
    「誰か人材(いいひと) 知らないか?」
     訊いたところに 数日を経て

 推薦の 有能こそ ポーランド人
     達者ばかりが よく集まれり

 日本領事(りょうじ)館と 日本人を
        捜す無駄
     かえって情報 得やすくならん

 疑えば キリがないんだ この業務
     あえて任せる 度胸の千畝

 おとりも ことりも 二重三重 巣を編みて
     世界のなかに 飛遊している

 危惧しても やり遂げねばならぬこと
     ネバー・ギブアップ
      千畝(わたし)こそ識る        

一職員
                             
 ポーランド青年 あの道 逃げ延びた
     分割祖国 ふたたび踏むと

 リトアニアと ポーランド越う 国境線
     ナチス逃れて ソ連逃れて

 ソ連軍に 捕らえられたら 絶望だ
     二度と消息
   聞かない人達(ひと)も
 
頻々と
                       
 職員の ポーランド人 幾人か
    頻繁(ひんぱん)になる 近辺情報
                         
 耳打ちす 〃リトアニアに
   ソ連占領(せんりょう)軍の
     可能性 事あるやも〃 と

 またの日は 〃ドイツ動向 緊迫〃の弁
     まさに欲した 千畝かな

 情報源(みなもと)は
   好意的 フィンランド領事
     あえて職員の 自由判断

 勤務外(オフ・タイム)と
   プライヴェートは 関知せず
     死活を賭ける
    いま この秋(とき)に
                                        
 わたしでも いくつ任務を 兼ねたかな
     見てみぬ振りの 人の世 君も

 ひとたちの 魚心あれば 水心
     時々刻々と 流れていやる

薄暮
             
 リトアニア
   薄暮(はくぼ)なるらん
    日々にして
     千畝あれかし
    灯(ともしび)もゆる

 オフィス・ルーム
   半地階(ちか)になる 領事館
     期限のうちに 賃貸契約              

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第一部 10

ここにまで 黄砂の粉塵 流れくる
  堕落(おち)ゆきし日本(くに)
   諾(うべな)えぬ われ

風情

 春の気配 澄みわたるらん
      フィンランド
  住めぱ都と 風情をみせる

 公賓の 接待多忙 引く手あまた
     ホスト ホステス 慣れが手伝う

 パーティーは 妻も同伴 これマナー
   息(こ)の世話たのむ 義妹と握手

 公使館 ダンス・ホールに 早変わり
     お歴々の会話 何ヶ国語も

 〃皇室の お后さまは どの国から〃
     慣習の違い ああ欧州と 妻

ドライブ

 冬はスキー 夏は白夜の ヴァカンスよ
     白樺の森 爽快ドライブ
 
 弁(わきま)えぬ
   公私のけじめ 長として
    リラックスの場
     さがそう家族と
   
 公使交際(こうさい)の
    送迎つとむ 運転手
     元 校長よ
    カー・ライセンスの

 意志つよく 公務の合間 練習す
    物覚えなら
   テクニシャン千畝

 血相かえて
    部屋に飛び込む 運転手
     夜のうちに
〃公館車(くるま)が盗まれました〃     

 免許取得(しゅとく)すも
   やはり公務は 試すなき
     こそっと真夜中 ハンドル握る

 ひとたちの 不安のなかに クラクション
     千畝ご満悦 ストレス発散

 いやぁ ちょっと失敬
   カー・レッスンさ
     悪びれず言う
      朝の光りに

 決めたなら 遣(や)らずにすまぬ
    資質(たち)なんだ
     満足テクニック
      得られたからね

 ライセンス
   有ると無しとで 大ちがい
     休みに行こう
   ピクニック 家族だけ

 いずこの道 走れよ車 家族連れ
     農村視察 兼ねているかも

第二子

 耳打ちす
   〃この秋には 二人のパパよ〃  
    恭(うやうや)しくも
     ああ抱きしめん

 二人目は どちらが欲しと 問う妻に
     子の可愛いさや 男女平等

 区別なく 教育するは あたりまえ
     叱らず躾  褒めて伸ばそう

 日本流 長男 大事の われになし
     個性やどして 子は人となる

 妻しきり 名をや思うは 女の子
     健やかなれば 恵まれた子よ             

 たから持つ
  愛し子生(な)さん
    夫婦(ふたり)して
エネルギッシュに
     かつデリケートに

 第二子の 産声(こえ)
    十月二十九日して
      われは次男を
      抱きとっている  

 うつくしき 千の暁(あかつき)
    満つ湖畔
     きよき魂
    吾子(あこ)よ たもちて

 肩車 のせて見せたり 弟を
    不思議そうに おもしろそうに

 ケンカすも 笑いあいたい 二児うけて
     普通の家族 養っている


       
 各国(くに)として 大同小異 あるものの
     戦争 不可避 対話すうちに

 錯綜(さくそう)す 口コミのなか 暗示的
    つのる手強さ ナチス・ドイツと

 敵愾心 見え隠れする 大陸で
     動揺あらば 付け入る隙を

 監視され 監視している 官吏たち
     自分ひとりの身でない故に

 みえないヴェール越し 冬さなか
     公使たちの眼 だんだん据わる

  暁の ただなか一番 冥(くら)いとき
      公僕とはと 自問自答す               

1939

 装って からませる腕 素敵ねと
     ♪ある晴れた日♪の オペラ鑑賞

 めずらしき 着物あでやか 華となり  
     ひときは映える 白き柔肌

 シベリウス 手ずからサイン さらさらら
「フィンランディア」よ 輝(きら)めく湖水

 お手を どうぞ
   会釈(えしゃく)の袂 やわやわと
     夜半(よわ)の月光(つきかげ)
       ワルツ舞うよう



 寸きざみ 戦火いさおし ノモンハン  
     蒙古国境 黒煙(けむり)はけしく

 衝突す 日ソの渦の 逆巻きに 
    満州国は
     あたま朦朧(もうろう)  

 窶(やつ)れたる 地を省(かえり)みることもなく
     国是なさんと 剣(たち)風ふかす

 満州里 日本の防波堤ならざらん
     峰を濡らしぬ 血の涙もて
                 
 みはるかす 軍攻 敗れし 日本かな
    仇なすものは 誰の意志とぞ

 殺気立つ 両国間の 通信網
     全神経を 尖らす千畝

 日満の 相い食むことの ソ連(てまわし)か
     近未来軍 高さ思い知る日々             

相似

ソ連(ある)党首「ドイツが もしフィンランド攻めば 
     目にもの見せる」 と 声明す

 臨場感 切迫せしを 身にこたえ
     深呼吸して 背伸びの千畝

 悪しき事態 道なきみちの ユダヤ民
     越境やすし 目はリトアニアへ

 経ていきぬ 国境線を 陸続と
     着の身着のまま 多国籍人よ

 貧富の差 年齢の差も あらなくに
     理想の模索 永々として

 伝え聞く 「東洋のスイス」 リトアニア
     土地感たよって 目指そう朝(あした)

『起点』  
転任  
 
 転任令 リトアニア在カウナスへ
    そこにあるは 戦略的価値

 新設の 領事館 領事派遣
   政府たがいに 問いあう人事

 政府内 官僚(エリート)意識ばかりなる
     一通訳官(つうやく)に 白羽ふたたび

 任という 責務なればの おとこかな  
     文武(あいまい)こそが 役立っている  

 代理とも 務め上々を 重視され
     レベルとキャリアが 了承を得る

 ヘルシンキ 残務整理も そこそこに
    船足のごと 波を蹴立てて               

 みまわせば 世界の眼 ドイツ向く
     いずれ火薬庫 暴発するか

 相似的 ソ連とドイツ そに増して
満州 フィンランド 侵されるもの

泡沫

 不和雷同 嘘も方便 独ソ不可侵の  
     不信うごめく 日本国内

 泡沫 一瞬 さっと過(よぎ)りぬ 矢のように
     日本のうえを かすめていった

 独ソ不可侵の 深部の基 領地割譲
     ポーランドしかり バルトもしかり

 熊の番 日本にあたう ドイツかな
     政府機密の 知られつくして



 新設置 カウナス領事館とはいえ  
    武官の務め ああ任されて

 日本 陸軍 参謀本部あて
     あたらし耳目 リトアニアかな
                                
 声 聞き分け 眼に焼きつけて
   国際電報(でんぽう)に
     独占領国境地の風聞 しらしめ

 独ソ不可侵の 破棄み ソ連の動静み
    畏怖の国にて こと穏便を  

 頻繁に 遠吠えありぬ 国境線
      絡みあいしつ 怒濤を待つや

 不気味なれ カウナスの街 しずかさは
     嵐のまえの ひとときならん            

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第一部 9

 隠れ簑 適度に処置す 処世術
   学ばせられた 否(いな)いまもなお

 憶測の 乱気流に 舞わされて
     褐色の髪 ウェーブかかる

 ひとたちに
   虚々実々と 見せいしが
     ロシア語 語れば
       眼(まなこ)おおきく

 われしらず
 目は口ほどにモノを言い
     明るさ際立つ 外人なみに

1937~1939

 ひとまずは
   赴任猶予で ソ連行き
     ヴィザ下りぬこと
      泰然(たいぜん)あせらず

 判ひとつ ヴィザ一枚の 重さかな
     国境越える いと困難さ

 あまりにも ロシアに馴染む 千畝なれ
     警戒されたか 二重の疑惑

 そんなもの 今 始まったことじゃないさ
     思惑ふかき 政府官なら

つなぎ

 着実に 情報つなぐ 任務して
     螺旋(らせん)階段
       段々 高みへ

 顔つなぎ ポーランド人 幾たりか
     反ナチスかう 思慮と展望で

 以前より 親密交換 ポーランド
     持ちつ持たれつ
     知己(ちき)をつないで        

 異国民(ひとたち)を
    いかに理解し 尊敬す
     繋(つな)ぎとめるは
       ただ心かも

 経(へ)た人たち
   好意と反感 スクランブル
     異は異としてと
    まじわっている

草露

 敵の敵は味方 ああ空虚
     千畝の胸裡(むね)に
      憤(いきどお)る痛み

 個々人が プライド保持の 重用性
     観察し考察す どの国にても

 雑草と 花は同等 地球にて
     そを違(たが)えての
       民衆蔑視は

 謀るとも
  一人ひとりが
   使命あり
    為せばなるらし
     中(あた)る千畝は

 時局かな レジスタンスは 草の露
     地下に入りて 奔流をなす

浮揚


 やはり軍部(ぐん)
   荒らし始めた
     中国国内(こくない)を  
      それ以上の血
       流されたくない

 何時にでも 発てる用意は 周到や
     さっと進退 外交務上
 
 そうだった 今回からは 家族連れ
     嬉しいような 不安なような

 扶養する 妻子と義妹 ひとかかえ
     ほのぼのとした 日向みたいだ

 勉学と 育児の助け 妻の補助
     兼ね備えての 義妹ともなう          

辞令

 やっと来た 赴任辞令は フィンランド  
     近道 ソ連 通してくれぬ

 自認 ロシア通 千畝にしてさえも
     つかむは多難 情報の阻止は

 外務上 ソ連情報(じょうほう)
     欲しているかぎり
  手をつかねては 名折れなるらし

 
 フィンランド国境
    情報(やりとり) 自由
    北欧の冬 ソリで駆けるか

 スラプ諸国 つてや口コミ あらまほし
     ここも大陸 知り慣れている

          
 語るとき @四ケ国語を 千畝する
     TPOに合わせての駆使

 お国事情 追って量るべしと さとされて
     疾(と)く視察して やり抜いてきた

渡航

 片手にて
  息(こ)を抱え上ぐ 船出かな
    凪いてほしや 家族のために

 通常任期(つうじょう)は
    二年間とし 言われるが
     当てにできぬよ
      任務遂行(すいこう)者

 船旅の 出航 結構 途次のあり
太平洋・米国横断(おうだん)しての
      欧州ルート            

 渡航経て 着いたシアトル 陸路線
     ゆとりないまま 行くニューヨーク   

 昂揚感 ここは世界の大都会
     みわたす目橋に
  出迎え外務省員(がいむしょう)

 観光一泊するはず ニューヨーク
     時差間違え すぐ彼の船を指し

瞠目

 豪勢な ドイツ客船 <ブレーメン号>
     〃大きな白いビルみたい〃と 妻

 何みても 何に接しても 海の外
     初の社交場 旅寝の妻の

 好奇心
  あちらも こちらも 満たさんと
     片言の妻
      外国(とつくに)を知る

 豊饒と 豊満さに
   カルチャー・ショック
     瞠目(どうもく)しても
      妻おそれまじき

 目を瞠(みは)る
   妻の暮らしの かわりよう
     奥様たちの 毒気にあてられ

 〃今日は あの方に 訊(き)かれちゃった
     「貴方は なぜ
    黄色い膚(はだ)じゃないの」って〃

 朝 昼 晩 着替えてられぬ 食事時
    着物でとおす 妻の健気さ

 船室で 
   のんびり過ごす 暇(いとま)なく
     息(こ)を義妹に 交歓へゆき

 過ごすこと 数日なるも <ブレーメン号>
     妻は識(し)ったか 世界の妙を  
           
北欧

 ドイツ・ブレーメンハーフェン 土を踏み
    ああ公使館まで 家族旅行よ
                       
 国境を ゆられ ゆられる
   国際列車(れっしゃ)かな
     オランダ・スイス 旅し気分の

 あとすこし
   行けば任地だ ヘルシンキ
     さぁ と 胸張り
    もう官(やく)の顔貌(かお)

着任  

 公使館 みおろす湖面 冴え冴えと
     あたらし気風 たちのぼらせて

 妖精が 隠れてそうな 森 小道
     思考の散歩 一人てくてく

 公使通訳官(つうやくかん)
   保つ緊張 慣れてしも
    妻子の笑みの
    われ癒(いや)したり

 日欧で
   差異ある作法に とまどいつ
     ファースト・レディ
      妻は倣(なら)いき

 国と国 組んずほぐれつ 繰り返し
     絆よしあし 構わんというか?
 
公使代理

 単身の 公使移勤の 辞令あり
千畝 即時(そく)
  フィンランド公使代理(こうし)に 

 ひき継いで あらため見直す 公使館
     再々覚悟す この己(み)の任務
                              よう
 いまだ浅き 日本人とは どの様子か
      夫婦あげての 親善となる              49

 エチケット つけ焼き刃でも おおらかに
     初お目見えの 妻の手をとり

 レセプション 夜会 お茶会 妻しあれば
     和やかなるを はじめて知りぬ
                       ふじん
 若き妻 重責ならん 公使夫人かな
     そう 華やかな生活 これが

 親しまん 各国公使の ひきもきらず
     行き交う館邸 やあ今夜もだ

 気苦労(くろう)おおい事
   分っているよ すまないね
     いたわる手にも 愛はこよなく

脅威

 標的化 フィンランド国境 日本海境
     和睦ならざる ソ連 相手に

 ソ連には 脅威している フィンランド
     相似たものの 持つ友好や

 ロシア気質(かたぎ) ロシア世界を
      熟知(じゅくち)して  
     なお探索(こころ )す
       千畝 複雑

愚考  
 
 日本軍 愚味な蛮行 またぞろに
      残虐性の 悪漢をみる

 亜細亜(アジア)の地
  割拠(かっきょ)するらん
      野心もて
     南京の街 惨禍騒乱

 人畜鬼(おに)としぞ
    屠(はふ)る屍(しかばね)
     踏み越えて
    白濁(はくだく)の道
     唾棄(だき)してゆくか

 殺戮の
  腐乱の臭い 嗅(か)いだとき
     すべての魔物
      裡(うち)に沸くらん

 憐れ憐れ 老若男女
    穿(うが)たれて
     なし崩すかな
     命まほろば               

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